ドイツの家が考えるデザインと性能の両立 Dialog
Talk Member
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建築家 永木 靖久 Nagaki Yasuhisa
神戸大学大学院工学研究科を修了後、建築家毛綱毅曠氏に師事、現在オスモ&エーデル株式会社ハウジング事業部設計部長。
デザインと高度な温熱環境を両立した「美しい省エネ住宅」の設計を行う。 -
省エネ建築診断士 吉田 貴紀 Yoshida Takanori
大手住宅メーカーで営業を経験した後、オスモ&エーデル入社。
ドイツ建材を通じて様々な設計、建築に携わり、
高性能住宅を追求する全国の団体に参画。 -
代表取締役 及川 英治 Oikawa Eiji
オスモ&エーデルに入社より25年に渡りドイツ建材の輸入販売に携わる。
現在、代表取締役として、オスモ&エーデルのビジネスマネジメントを行う。
Q2. ドイツの家はどういう家ですか?
僕もそれはよく覚えています。え?違うの?と思いました。
違うと思います。
おふたりは設計の立場や温熱の立場から見ることが多いと思いますが、僕はもっと一般的な立場からいつも見ています。
極端に言うとお客様にとって建材がドイツ製であるかどうかはそれほど重要なことではない、むしろそれはこちら側の勝手な都合にすぎないということです。
そうおっしゃいました。ちょっと衝撃でした。
お客様が求めておられるのはドイツ製の建材でできた家ではなく、ご自身にとっての、つまり個人的な快適さだ、ということですね。さらにその快適さというのは人によってぜんぜん違うのだということをよく考えないといけないとも発言されていましたね。
ええ、そうです。
さらに言うと快適さとは温熱だけのことではないと思います。
住宅の温熱性能についての変化がこの数年とても目立つようになっているので、どうしても温熱のことに目がいきますが、たとえば音についてはどうなのか、ないがしろにしていないか。
そもそもデザインについてはどうなのか、センスのよくない空間に身を置くと不快ですよね。
あるいはコストもそうです。快適さを得るためにコストがかかりすぎるのはやっぱりそれも不快ですよ。
そのときに参加者のひとりがちょうどいいってことかな、と発言して社長がGut für mich とつぶやかれた。社長はドイツ語が堪能ですからね。
一瞬の沈黙のあとみんなが腹落ちした、という感じでした。
長くドイツの家はGemütlich 居心地がよい、をキーワードとしてきたのですが、その快適性をもっと個人単位に追求しようということでGut für mich 私にちょうどいい、ということなのですね。
ドイツの家の思想については詳細にデザインのページに書いていますので、ぜひそれをお読みいただきたいと思いますが、この「私にちょうどいい」を本気で実現するには実はかなり高い性能が要求されると思っています。
よく「ちょうどいい」を中庸なものと考えて、性能はこれくらいで充分、だからコストはこれくらいでいいんですよ、とアピールする工務店さんがありますがそれとは違うということですね。
そういった工務店さんのコストは大手ハウスメーカーよりかなり安くなければならず、だからといって性能に無頓着なわけではなく一定レベルはきちんと担保しています、というお客様に対してとても親切で安心感のあるビジネスだと思いますが。
そう思います。しかしドイツの家の「私にちょうどいい」はその性能レベルではありません。数値化できる温熱について考えてみます。
温熱についてというなら、そのまえにざっくりと温熱のレベルについて教えてください。
日本では2つの指標を使っています。民間の指標であるHEAT20とそれを追うかたちでできた国の指標である断熱等性能等級です。HEAT20で話すときはふつう下から、平成28年省エネ基準、ZEH基準、G1、G2、G3となります。これを断熱等性能等級でいいかえると断熱等級4、5、6、7となります。
あれ、数があいませんね。それに断熱等級1、2、3はどこにいったのですか。
HEAT20と断熱等性能等級では、その根拠となる外皮平均熱貫流率(Ua値)が微妙に異なるためで、G1にあたる断熱等級がないと考えてよいです。ですので断熱等級5と6の差はけっこう大きいですね。それから断熱等級1、2、3がないのは2025年から断熱等級4が義務化されるためです。
断熱等級1、2、3の意味がないということですね。たしか最近までは断熱等級4が最高等級だったのにいきなり最低等級になるんですね。おかしなかんじがしますが、これはやはりいかに日本の住宅性能のレベルが世界から遅れていたかということなんでしょうね。
そのとおりだと思います。さらに2030年にはZEH基準(断熱等級5)を義務化しようとする動きがあります。2030年に実現できるかはわかりませんが、いずれは義務化されるでしょうね。さきほどの中庸をアピールする工務店さんはこのあたりの性能にされることが多いようですね。
ドイツにはパッシブハウス認証やローエナジービルディング認証という基準があり、日本のHEAT20や断熱等級とはその根拠が異なるので一概に比較はできませんが、G3あるいはそれ以上というきわめて高いレベルの認証となっています。よく言われるのがパッシブハウスだとだれでもなんの工夫もなくいつでも快適、ローエナジーだと少しの工夫で快適さをコントロールできる、どちらがいいかは人それぞれですね。
個人的な快適さをコントロールできるという意味ではローエナジーのほうがおもしろそうです。ただドイツの家は「資産」なのでそれを考えると万人が快適なパッシブハウスでしょうね。ドイツの家は「環境」でもあるのでこちらもパッシブハウスですね。
いまのはドイツ基準ですが、日本の基準だとやはりG2.5からG3以上あたり、断熱等級6後半から7以上の話になるでしょうね。いずれにしてもかなり高い性能での話です。ここらへんの性能について議論するのがドイツの家の「私にちょうどいい」です。
いきなりきましたね。なかなかむつかしい質問です。
ふだん会議でもよくこの議論はしていますが、印象的だったのはオスモ&エーデルがドイツから直輸入している4つの建材を使ってつくるのがドイツの家だ、みたいな議論になったときに社長がそれは違うのではないか、と発言されたことですね。