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  • 建築家 永木 靖久 Nagaki Yasuhisa

    神戸大学大学院工学研究科を修了後、建築家毛綱毅曠氏に師事、現在オスモ&エーデル株式会社ハウジング事業部設計部長。
    デザインと高度な温熱環境を両立した「美しい省エネ住宅」の設計を行う。

  • 省エネ建築診断士 吉田 貴紀 Yoshida Takanori

    大手住宅メーカーで営業を経験した後、オスモ&エーデル入社。
    ドイツ建材を通じて様々な設計、建築に携わり、
    高性能住宅を追求する全国の団体に参画。

  • 代表取締役 及川 英治 Oikawa Eiji

    オスモ&エーデルに入社より25年に渡りドイツ建材の輸入販売に携わる。
    現在、代表取締役として、オスモ&エーデルのビジネスマネジメントを行う。

Q6. ドイツの家にすむとどんな暮らしになりますか? 

Oikawa Eiji

ドイツの家はGemütlich & Gut für mich、居心地がよく私にちょうどいいですからその暮らしぶりはひとそれぞれでしょうが、どんなイメージですか?

Yoshida Takanori

長袖Tシャツ1枚で暮らすということですね。長袖というのが肝で、暑くも寒くもなく自由な状態の象徴だと思います。それから一般的なエアコンを全館空調的な使い方をすることで、家のどこにいてもほぼ同じ室温になるので、 家全体を有効に使うことができます。
60坪の家でも冬は寒くて20坪しか使えないより40坪の家をいつでも40坪使えるほうがよいに決まっているので、 費用対効果 の面からも有効です。またできるだけエネルギーを使 わない、環境負荷をかけないというのは経済的なメリットはもちろんだけれど精神衛生上にもよいですよね。電気を湯水のように使うのはもうダメですし、そういえば湯水だって湯水のように使ってはダメです。

Nagaki Yasuhisa

柏尾台モデルハウスでの実際の例をお話しします。
柏尾台モデルハウスのUa値は 0.3、 C値0.5程度で、延床面積は約60坪(120帖)で1階玄関ホールと50帖の2階 LDKが吹抜けでワンルームのようにつながる比較的大きな構成になっており、LDK、個室群共に南側に大型窓と外付けブラインドを持っています。
エアコンは玄関ホールに12帖用、LDKに14帖用がひとつずつ、1階の個室群には部屋間サーキュレーターが設置されています。
2023年から2024年にかけての冬季でいうと、12月中旬くらいまでは前日までの太陽エネルギーのみの無暖房で朝18℃~19℃あたりをキープできていました。起床時のその温度はかなり良好な室温でスッキリとスムーズに起きることができます。
昼の室温は天気がよければ23℃程度まで上がり上下階の温度差は1℃程度です。実際の生活熱が加わるともう少しあがるでしょうね。
12月中旬以降徐々に室温が下がりだし1階玄関ホールのエアコンのみ 24時間稼働させることにしました。20℃に室温を設定し朝は20℃、昼は23℃程度をキープしていました。
24時間の稼働とはいえエアコンは設定温度まで上がるとあとは小康状態になります。室温が上がる順番は2階LDKが最初、それから1階の個室群、最後に玄関ホールとなります。エアコン1台の稼働は 4月頭までつづきましたので暖房期は 3.5〜 4ヶ月となります。安定した室温を常時確保できることに加え、エアコンとLDKが離れていることで気流を感じることもなく常に快適な環境となっていました。
また日射があたる無垢フローリングは充分に暖かく、見学された方には床暖房と勘違いされる方も多くおられました。室温が気流もなく暖かいので外気に触れたときにその温度差に見学された方は驚かれます。ちなみに暖房期にエアコンの稼働を止めると1日かけて1℃から2℃程度室温が下がるというとても緩やかな温度変化をみせます。

Oikawa Eiji

12帖用エアコン1台で120帖を暖めるというのもすごいですが、それ以上にエアコンをつけた時期がすごいですね。実際ほとんどの家だと10月末くらいから暖房をつけているんじゃないですか?2ヶ月近く違うというのはかなり驚きですね。Ua値だけでは測れないドイツの家の窓のサイズと性能だということになりますね。

Yoshida Takanori

WHO(世界保健機関)が冬季の室温として18℃以上を強く勧告しています。また有名なイギリスの基準HHSRS(housing health and safety rating system)では当初昼間21℃、夜間18℃を推奨し、16℃以下は高齢者の呼吸器や心血管に対して重大な健康リスクがあるとしています。いずれにしても18℃が健康的に暮らすうえでとても大切な数字であるということを覚えていただければと思います。

Oikawa Eiji

環境と健康を守るという暮らしかたですね。一方で環境から恩恵を受ける暮らしかたもあると思うのですが。

Nagaki Yasuhisa

それはドイツの家がたいせつにしている自然と一体化する暮らしです。お客様のご自宅に伺うとときどきすべての窓にカーテンがかかっていることがあります。いろいろな事情があってそうなっているのだと思いますが、やはりこれは残念なことですね。

Yoshida Takanori

ドイツでも庭はとてもたいせつに思われていて皆さん美しい庭を整備されていますね。外観や前庭の規制が厳しいので特に裏庭を個性的に仕上げるようです。

Nagaki Yasuhisa

そういえばどこかで読んだのですが、人生の最後の景色が自宅の庭というのは最高だと。たしかに建築がどんなに素敵だとしても最後は庭だなあ、と妙に納得しましたね。

Oikawa Eiji

ドイツの場合は庭や借景との関係をどう考えていますか?

Nagaki Yasuhisa

ドイツの家では完璧に快適な内部空間から大型窓を通して自然を楽しんでもらうということが基本になります。
たいせつなのは全ての窓に近景、遠景問わず緑がかかることです。
そうすると暮らし全体が緑に覆われているような豊かな気持ちになり、環境と共生している実感があります。
とくに小窓、といってもドイツの家の場合はかなり大きめですが、そこに緑がかかることの効果は思った以上に大きいですよ。
小窓から見えるのは隣家の壁だけというような事態は避けるべきです。
そもそも小窓の配置にはもっと慎重になったほうがよいです。
多少の光や通風を確保するよりも思い切って小窓をやめてしまい、見たくないものを見ないというほうが精神的に健全だと思いますね。

Oikawa Eiji

実際にドイツの家に住まわれているお客様が共通しておっしゃるのは家に滞在する時間が大きく増えた、ということです。これはどのように考えますか。

Yoshida Takanori

完璧に快適な内部空間で自然と一体化する感覚を味わうとあまり外に出たくなくなるのかもしれません。外部の自然はいつも快適なわけではないですが、本当に外部が快適なときは窓をキップしてあるいは庭に出て楽しむといいと思います。それ以外は美しい内部空間で自然との一体化を感じましょう。それが合理的で快適な暮らし方だと思います。