収納ということ
1994年に出版されたピーターメンツェルの「地球家族」という写真集をご存知だろうか。
この有名な写真集は世界各国の平均的家族に対して「家の中のものを全部、家の前に出して写真を撮らせて下さい」とお願いして撮ったものです。
表紙の写真はマリの家族で、家財道具は鍋などの調理器具とベッドなどの寝具のみ。
一方で日本の家はもっともごちゃごちゃとモノにあふれているのですが、僕はそのモノの多さよりもモノの内容にかなり衝撃を受けた、つまりはほとんどがガラクタに見えるほどに美しくないのです。
結論めいたことから言うと、僕は収納を少し少なめに設計したい、もちろんできれば、だけれど。
ホームページでインタビューを受けていただいたM夫妻の場合。
ドイツの家の前は分譲集合住宅に住まわれていたのですが、そのときから一流の家具(ダニエルの家具たちとカッシーナのソファです)に囲まれて過ごされており、いつおじゃましても常に整理整頓がなされていました。
ドイツにはOrdnung ist das halbe Leben(人生の半分は整理整頓)ということわざがあるのですが、その言葉通りのスタイルをお持ちでした。
M夫妻の家の収納もやはり少なめです。
もともとモノは多くない生活をされていましたが、それでも少し少ないぞ、というニュアンスの量だと思ってください。
じっさいに引越し後、そのけっして多くはないモノが入りきらず、しばらく呆然としたそうです。しかしその呆然のあと、夫妻はどうされたか。
夫婦はそのモノたちの仕分けを決然と始めたのです。
結果さらにモノが減り、残ったものが適宜な場所にきちんと収まっている状態となりました。夫妻はこうおっしゃいます。
「この家は大好きなのだけれど、その理由のひとつに収納の少なさがあります。
私たちを以前よりもっとシンプルな暮らしへ導いてくれ、もっとすっきりとした気持ちで過ごせています。」
30代の前半に両親の家を設計しました。
両親の年代としてはモノが多いという程ではなかったかもしれませんが、たとえばM夫妻と比べると数倍のモノがあったように思います。
そこで18帖のリビングダイニングの天井高を4メートルとし、その上に12帖の小屋裏収納を設計しました。
現在その小屋裏収納は満杯とはいえないまでもそれなりにモノが鎮座し、ふだん使うダイニングテーブルの上にもそれなりにモノがあふれている状態です。(不快でない程度に、ですが)
少なめの収納でもモノがあふれないM夫妻、大型の小屋裏収納があってもモノがあふれる両親。ライフスタイルのちがいというやつです。
同時にモノがあふれるかどうかは収納量の多さとは関係ないということです。
ちなみに教科書的に言うと収納面積は計画面積の10%を確保するということになっているのですが、改めて調べてみるとM夫妻の家は約7.5%、両親の家は約20%でした。
けっきょく人は収納量の分だけモノを溜めこむようで、だったら収納量の多さというのは必ずしも住まいの心地よさとはつながらないということです。
たっぷりの収納を設計することもあります。それは収納が設計のテーマになる場合です。
たとえば大量の蔵書がある、美術品がある、どう考えてもふつうの収納量では足らないのが明らかだなどです。(両親の家もこれにあてはまるのかもしれません)
この場合いろんな場所にモノをおしこむのではなく、そのモノがある空間をワクワクできるようにすることです。
吹抜けの壁一面の書庫や連続アーチの書庫、研究所の収蔵庫のように整然と並べるなどいろいろな手法でのデザインです。
家の大きさによる違い、つまりふつうの大きさの家と大型の家とは収納の考え方が違うと思っています。
ふつうの大きさの家では収納は(その量はさておき)建築で解決、つまり「壁収納方式」です。 一方、大型の家の収納は家具で解決、そして家具に入らない分は納戸という「家具&納戸収納方式」が僕の考えです。
一般公開されている大きな洋館を見学して細かく「壁収納」があると思ったことありますか?僕はないです。
洋館も「家具&納戸収納方式」のはずですが、もちろんその家具が素晴らしいデザインであることは言うまでもありません。
さいごにもうひとつ、収納とエネルギーについて。
コンパクトな家の場合ということになるかもしれませんが、収納が住宅性能の助けになります。太陽熱エネルギーは季節と方位によって強弱が変わります。
冬場に太陽熱エネルギーが最大なのは南面ですが、夏場は南面より東西面のほうが大きくなります。(夏場の最大は水平面です)
そのためドイツの家は基本としては南側に最大級の窓を設置し、東西面は出来るだけ窓を設置しないのですが(実際にはドイツの家には外付けブラインドのヴァレーマがあるので東西面ももっと自由です)、その壁の多い東西間を「壁収納方式」の収納とすれば特に夏場には断熱効果の上積みが期待できて合理的です。
written by NAGAKI