家具ということ

僕の自宅にはソファがない。
使わないで地下の倉庫にしまっていたものがあったのだけれど、張り替えて現在は柏尾台モデルハウスで使用しています。
ソファはないけれどアームチェアは4脚あります。
僕はソファよりもアームチェアのほうが好きなのです。
だってけっして広くないリビングにソファなら1台しか置けないのにアームチェアなら4脚置けるのだもの、そのほうが楽しい。

僕の場合は4脚のうち2脚はペアなので実際は3種類のアームチェアを楽しんでいます。
(寝転びながらテレビを観るという至福の自堕落はできませんが、まあよし、です)
当然ダイニングチェアもあってそれが4脚、それにハーフシッティングチェアがあるのでリビングには計9脚の椅子があることになります。
ダイニングチェアはそれぞれまったく違うものなので計8種類の椅子です。

ソファはいらない、なんていうお客様は特殊とお思いかもしれませんが、さにあらず、けっこういらっしゃいます。
大磯のA夫妻もそうです。
建物はかなり大型の家ですが、ガラス面が多くソファよりラウンジチェアのほうが美しいと迷うことなくソファの考えは捨てられ、選ばれたのはスウーンラウンジアームチェア、しかもデンマーク製の本物です。

ちなみにインターネットを見てみると「ソファなしリビング」というのがあるのですが、そのほとんどが床に直接座って寛ぐ、というスタイルでそれはどうかなあ。
ドイツの家のオスモフローリングは無垢材に自然塗料オスモカラー塗装なので一般的な複合フローリングより圧倒的に心地よいのですが、それでも。
日本人は上足の文化のため床に対して清浄感をもっている民族だと思いますが、やはり床と畳では感覚が違います。
落とした食べ物を躊躇なく口に入れられるか、床は躊躇しますけれど畳は躊躇しませんよね。
畳が床より清潔だなんてまったく根拠はないのに。
なので僕は床に直接座るスタイルはどうにも違和感があります。
(ときどき床に寝転んで自由を楽しむ、というのがいい)

ところでもし家を新築したとして、みなさん家具はどうしますか?
いま使っている家具をそのまま持ちこみますか、それとも思いきってすべて新調しますか。
設計者としては正直に言うと新調、がうれしい。

どんな家具を買えばよいですか、と聞かれることはよくあります。
人気住宅作家の中村好文さんは「モダンデザインの名作椅子をお買いなさい、値段はぐっと高めですが」とおっしゃいます。
まったく同感ではありますが、ある程度のデザイン性が担保されるなら僕はこう言います。
「いつどこでだれとどうして買ったのかそのヒストリーを話せるような家具を買ってはいかがでしょうか。」

僕の場合だとたとえばペアのアームチェアは神戸元町の永田良介商店で買ったもので、座面と背面の布を張り替えてもらいました。
永田良介商店は神戸洋家具の老舗で芦屋にあるフランクロイドライトの旧山邑邸の家具でよく知られていますね。
たとえばダイニングチェアのひとつは高濱和秀の「TULU」で当時取り扱いをしていた青山のシモンジャパンで買いました。(現在はカッシーナ取り扱いです)
高濱さんは僕の最も尊敬するデザイナーで30年近くのファンです。(柏尾台モデルハウスで使用中のソファも高濱さんのデザインです)
ことあるごとに高濱さんデザインの家具をお客様にお勧めしていますが、採用になったのは多くありません。

その他神戸元町のロイズアンティークスで買ったアーコールの椅子、三宿のグローブアンティークスで買ったイギリスの折り畳み椅子や甲南山手の神戸家具で買ったイギリスのダイニングチェア、それに芦屋の小さな洋服店(たしかmokonoさん)でなぜか置いてあったスペインのヴァレンチのアームチェア、しかも考えられないくらいの格安で。

ドイツのロルフベンツのセカンドライン、フライシュテール173と同じくドイツのウィルクハーンのハーフシィッティングチェアはヤフオクで、当然格安。
高いのだとシモンジャパンで買ったカルロスカルパのテーブル「Sarpi」とベッド「Toledo」、これらは清水の舞台どころではない場所から飛び降りました。

リプロダクトてどうなんですか、と聞かれることもあります。
好文さんは「本物を!」とおっしゃるでしょうけれど僕はいいのではないかなと思います、もちろん本物に越したことはないけれど。
できれば実物が見れることと、なんならオリジナルより品質がよいとアピールするくらいであってほしい。
ただときどきリプロダクトをジェネリックとよくわからない言葉でごまかそうとすることがありますが、その姿勢は上等ではないのできちんとリプロダクトと呼ぶのがいいです。

自作という手ももちろんあります。
大学院生のときゼミでリートフェルトのレッド&ブルーチェアを自作したことがありますが(僕は不器用であんまり手伝っていないけれど)なかなかよくできました。

ダイニングチェアは揃えがいいですか、とも聞かれます。
設計者としては「揃え」ですが、個人的には「自由」がよいです。

けっきょくお勧めの椅子てなんですか、とも聞かれます。
ハンスウェグナーのYチェアですとお答えします、お答えはしますがYチェアを体験したうえでそれを基本にいろいろと悩まれるとよいと思います。
Yチェアは設計者たちが採用しすぎて正直「飽きた」かもしれない。

それに僕の学生時代に別格に人気があったのはYチェアではなくてジオポンティのスーパーレジェーラです。

ちょうどレッドツェッペリンの「天国への階段」の別格さのイメージ。