間取りということ2

以前の間取りについてのエセーで「設計者は間取りまでにほとんどの設計は終わらせている」という話をしました。
僕はそこで設計の考え方をほとんどすべて語ったというつもりでいて、「間取りは最後の作業」
とお伝えしましたが、その後聞こえてきたのはその最後の作業をこそを聞きたいのだという声。

そこで今回は前回お話しした立体的な空間の捕まえ方ではなく、平面的な「部屋の配置」特にリビングとベッドルームと子ども室という3つの部屋の位置関係について考えます。

間取りという作業ではこの3つの部屋の位置関係を正しく設定することがとても大切、もっと言うとそれがすべてだと考えます。
お客様はプランについて特に動線にこだわられることが多いように感じますし、インターネットでも「家事動線」の成功体験がたくさん語られています。
ハウスメーカーも同じように「家事動線」こそが間取りの決め手とうたいますが、本当にそうでしょうか。
「家事動線」の成功の裏でこぼれ落ちた大切な快適さはないでしょうか。

告白してしまうと僕は動線はそこまで重要だとは思っていません。

立体的な光の検討の後、3つの部屋を正しく配置して残った位置に水回りを建物サイズに合わせてデザインして、ドイツの家のカタチと超高性能な建材を与えればドイツの家はほとんど完成するのです。
そう書くとドイツの家の設計はカンタンに思えてきますが、「正しさ」こそは案外シンプルにで
きているのかもしれません。

まずはリビングとベッドルームの位置関係について考えます。
僕はこの2つが同じ空間にあるのがとても嫌いです。
ほとんどの集合住宅はそうなっているでしょうし、独立住宅でも時折見かけます。
住宅はすべからく個人的な空間ですが、そのなかでもパブリックとプライベートの区別はきちんとあり、もちろんリビングはパブリックでベッドルームはプライベートです。
リビングはご友人たちが集う場所というだけではなく、家族のあいだでも緩くともパブリックがあるほうがよいと思います。
またベッドルームは言うまでもなくプライベートのとても強い空間です。
そのふたつの空間が壁一枚で隣り合うのは避けたい。

次にベッドルームと子ども室の位置関係はどうでしょうか。
子ども部屋の大きさについてはいろいろな考えがあってよいと思います。
それなりの大きさを与えて子どもの世界観を育むというのもよいですし、寝るだけの最小限(3帖程度でしょうか)の空間にとどめておいて別にスタディスペースをつくるというのもよいと思います。
スタディスペースが子ども室の近くかリビングの近くかは議論のあるところですが、大きさはつまるところどちらでもよいのです。
それより大切なのは子ども室の位置で、ときどきハウスメーカーのプランをお客様から見せていただくのですが、かなりの確率で親と子どもの部屋が隣接しています。
ベッドルームのプライバシーはとてもつよいということはすでに述べましたが、子ども自身にとってもそれは同じです。
子どもだったときのことを思いだしてみると、できるだけ親の部屋から離れた場所がよかったはずで、それは親子とはいえ「縄張り」という意識が働くからなのでしょう。
ときどき子ども室は近くにあるほうが安心という方がおられますが、そんな時期は一瞬で過ぎてしまいあとは子どもにとって迷惑でしかないのでやめましょう。
したがってこのふたつの空間が隣り合うのもやはり避けたい。

つまりドイツの家は3つの部屋が僕が思う正しい位置にそれぞれ配置されることになるのです
が、そのときに重要な役割を果たすのが(そもそも階がちがうという場合をのぞいて)玄関という土間空間です。
最近いわゆる玄関をやめてしまい、すべて大きな土間としてベッドルームを土間で他の部分と完全に分離してプライベートを強めたプランをよく提案していてそれがとても好評です。
土間は独立住宅の自由の象徴のような空間でぜひもっと積極的な活用が望まれます。
趣味スペースとして、犬たちのテリトリースペースとして、リビングに招くほどではないご近所さんとの交流スペースとして、土間は室内でありながら中間領域の役割を担えるとても有用なスペースです。

またリビングとベッドルームはかならず南向きまたはそれに準ずる向き、子ども室の向きはこだわりません。
子ども室が必要でないご家族や一人暮らしのお客様はさらに自由な間取りとなりますが基本的な考えは同じです。

ちなみにドイツの家ではリビングが1階か2階か、どちらをご希望されるかをまずお聞きしています。
そのご希望の割合はほぼ半々で、どちらを選ばれるにしてもドイツの家の基本である「美しいデザインと高い性能」による「自然との一体化」を実現しています。

written by NAGAKI