自己紹介、木と暮らし。

 はじめまして。ドイツの家で設計を担当している木村と言います。

 これからお会いするお客様にドイツの家にどんなスタッフがいるのか知っていただきたいなと思い、自己紹介をさせていただきます。

 私は大学では森林科に所属していました。すごくざっくり言うと、農学部の野菜ではなく木について勉強する学科です。なかなかマイナーな学問だと思うので、名物授業の一つ、葉っぱ実習(通称)をご紹介します。

1回生通年の必修科目で、毎月どこかしらの山に入り、道々先生の解説を受け葉っぱを採取、家に持ち帰り押し葉にして保存します。最後の授業では先生の研究室に所属する先輩総動員で押し葉コレクションのチェックをされ、葉っぱの実物を見て樹種名を答えるテストを受けました。

 大学の演習林では林業のサイクルを一通り経験しました。今となっては実習の内容よりも、山や木が身近になったことが財産だなぁと思っています。田舎道のドライブでも「ここの人工林は手入れが行き届いているなぁ」とか「ツガは杉やヒノキよりもヨーロッパ感があってかっこいい(偏見)」とか見どころが増えておもしろいですよ。

 木の勉強は大きく2つの分野に分けられます。一つは山の植生や林業といった環境や森林資源にアプローチする分野。もう一つは木を化学的・物理的な材料として活用する分野です。私は森林科の2つの分野のうちの後者、木材物性学の研究室に所属しました。選択理由は、木と暮らしが直結している研究室だから。私、子どもの頃から「暮らし」が好きなのです。

 研究室では木の物性(樹種や、根っこ・幹といった部位など様々)など物理的な研究がメインでしたが、私は「地域産材の経済波及効果」というテーマで卒論を書きました。研究の中で製材所やプレカット屋さんにヒアリングに行ったのが建築業界との初めての出会いです。それまで林業について学んできたのですが、それは山から木を伐り出すところまでで、その先は建物に使われるんだよねーくらいしか思っておらず、木が山から暮らしに辿り着く過程を実際に見て、木にも消費者(家で言えばお施主様)がいるんだということを、身をもって知りました。

 新卒では住宅建材メーカーに就職し、ショールームスタッフとして自社製品をお客様に案内・見積をする仕事をしていました。その中で「住宅設計の方がおもしろそうだな」と思い、通信大学の建築学科に入学。大学での勉強と同時並行で住宅業界に転職しました。

 「おもしろそうだな」の理由は2点あります。1つはお客様がショールームに持って来られる平面図。それを見ると自分の会社の商品のことしかわからないのがもどかしくて、家のプランからできるようになりたいと思ったのです。もう1つは、木との関わり方でした。

 ちょっと話は逸れますが私が「インテリア」ではなく「暮らし」が好きなのは、「インテリア」だと世界観を造りこみ、生活感は出さないものという感じがするのですが、私は主が住みこなした味のある家――もともと余白があって、生活感やその人の生活の知恵が感じられるような――が好きなので、趣味は「暮らし」と思っています。

 建材メーカーで扱っている商品は、主にインテリアをつくるものだと思います。「家の建具、フローリングというと木だよね」というイメージを持たれている方は多いと思いますが、「木」といっても無垢材であることは稀で、家の内装に使われている「木」は突板に塗装をしたものや、木柄のシートであることがほとんどです。汚れに強い、ワックス掛けが必要ない、はたまた○〇風を演出したい…など、住まう人のニーズに応えてくれる便利な素材ですが、お施主様、生活の味を出していくのは少し難しい素材と言えます。

 私の思う「木」の素晴らしさは生活を受け止める懐の広さで、それは木がそれまで生きてきた年月の厚みによるものだと思っています。柱に子どもの身長を刻むのだって、柱がまだ真新しいときは緊張したけど、だんだんと気にならなくなって、そのうちお家の風景として馴染んでしまいます。床材の凹みや、家具の日焼けだって同じです。木は暮らしと一緒に歳を重ねていく素材なんです。

 家、暮らし、木の、私が好きだな素敵だなと思うこの関係は、住宅業界で働き、また自分も生活していく中で徐々に自覚したものです。巡り巡って、自然塗料であるオスモカラーと無垢フローリングを使っているドイツの家で勤めることになって、そしてそんな素材を喜んで採用してくださるお客様に出会えて、とても嬉しく感じています。これから新しく出会うお客様には、木に身をゆだねてみてほしいなーと思います。