廊下ということ -鹿の子分譲住宅のトリセツ1-

分譲住宅らしくない分譲住宅として鹿の子台分譲住宅をつくりました。
設計手法についてはエセーで書いてみましたが、鹿の子台分譲住宅の特徴的な空間についてその使い方の提案をしたいと思います。

廊下、階段、ロングテーブルの3回にわけてお話ししようと思いますが、今回は「廊下」です。

おそらくいまでもそうだと思うのですが僕の大学時代、住宅の設計演習では「やってはいけないこと」がありました。
正確にはやってもいいが、高得点はもらえないぞ、という類です。
それが「廊下」です。(そのほかには「雨戸」もあります)
そんなバカなと思われるかもしれませんが、モダニズムの建築教育では廊下(と雨戸)はほとんどタブーといってよいような存在なのです。

すこし歴史を振り返ってみると、廊下は平安時代頃の寝殿造の「渡殿」にそのルーツを持ってい
ます。
渡殿は寝殿と対屋のそれぞれの棟を繋ぐ「渡り廊下」です。
その渡殿が室町時代頃の書院造で部屋がひとつの建物内にまとめられるようになると、部屋と部屋を繋ぐ通路として廊下、特に「中廊下」となり、これが現在の廊下の原型です。
明治期の西洋建築の導入以降、一般住宅にも「中廊下型」の間取りが使われることになります。

昭和の初期には住宅にすっかり定着した中廊下ですが、僕が建築教育を受ける少し前頃から住宅の中心であったリビングを開放的な空間に拡げ、個室群はリビングと直接繋がるような形式が好まれるようになります。
その結果廊下で部屋を繋いでいた形式は「古い」とみなされ、大学の設計演習で廊下を描こうものなら指導教官から「空間を考えていない」とばっさりとやられてしまう、というわけです。

一方さいきんでは廊下を積極的に見直すということもあります。
廊下を「移動のための場所」から多目的化することで「居心地のよい空間」としてデザインし直すという流れです。
つまり現在の廊下の扱いは①廊下なし②空間演出のふたつの方向性をもっているということになり、鹿の子分譲住宅ではその敷地条件等から②を採用することにしました。

玄関ドアをあけるといきなり幅1.69m、奥行が9.42mの空間があらわれます。
玄関框はありませんので、気になる方はマットをひかれるのがよいかと思います。
さあ、この空間をどう使われますか?

エセー「たたずむということ」でも書きましたが、日本の住宅では「家族が思い思いに居られる」場所の少なさが指摘されています。
ぜひこの「廊下のような空間」でたたずんでください。
2階のリビングとはまた違った自由な感覚が実感できるのではないかと思います。
完成後、弊社社員が数人でこの住宅を見学したのですが、ふと見るとこの廊下でみんなおしゃべりをしていて、設計者としてニヤとしました。
たとえば有名な名作スツールを数脚購入されて置いてみるのはいかがでしょうか。
この「廊下のような空間」にはたくさんのオープン棚が設置されているので、お気に入りの本や写真集を飾ってみたらいかがでしょうか。
ちょっとした合間にそのスツールに座って、パラパラしてみるのは楽しそうです。
リビングであらたまって読むのとはまた違った感覚でしょう。

ご近所の方の突然の訪問にも役立ちそうです。
玄関だけで対応するのは気がひけますが、この空間ならお互いに気持ちよくお話しできそうで
す。
ワンちゃんの一時的なスペースとして使うのはいかがでしょうか。
床が天然リノリウム貼りになっているので粗相にも安心ですし、ワンちゃんの脚にも良さそうで抜け毛がからむこともありません。

もし小学生くらいのお子さんがおられるなら、ここで友達といっしょに漫画を読んでいるかもしれません。
子どもは与えられた場所よりも自ら居場所をつくり、こういった内とも外ともつかないような曖昧な場所(実際には安全な内なのですが)を好むものです。

つまりこの廊下は「移動」のためという以上に「滞在」「出会い」「ふるまい」といった人の関
係性を生む空間だということなのです。

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written by NAGAKI